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(編者まえがき)

この記録は泉本修の遺族から提供されたものである。

 飛行学生時代・飛行作業が終ると隊長、分隊長から全般的な注意があり、そのあと受持の教官教員から個人的にきに微に入り細に亘って色んな指摘や指導が行なわれる。これを記録して受持教官の点検を受けたものである。

 第41期飛行学生(兵7Z期・機53期が主体)は昭和18917日霞浦航空隊に入隊し、10月から飛行作業を開始している。

泉本の記録は18101日の慣熟飛行から19年1月23日までの分が残っているが,紙面の都合上その一部を掲載するにとどめた。

使用機種鵬は93式陸中練。あるクラスはこの記録を見てこのとおりやれば今でも中錬の操縦はできるにちがいないと感心した。

 

操縦機上作業教育講評並びに注意事項摘録

泉本 修

 1810・1(金)慣熟飛行同乗

 (分隊長)

(1) 飛行軍紀二触ルル事絶対ニアルベカラズ

(2)教官教員ヲ絶対二倍頼シ大イニ質問スベシ  不安ヲ抱キタルママ飛行作業ヲナスベカラズ

(3)飛行作業ハ学生ノ本分ニシテ飛行場ハ吾人ノ戦場ナリ 文字通り一所懸命行フベシ

(4)41期ハ40期二追着カザルベカラズ 熱卜意気トヲモッテセバ不可能ニアラズ

(5)共ノ日修得セシ事項ハ必ズ復習スベシ

(6)体ニ異常ヲ来タサバ直チニ申出ヅベシ

(7)飛行機ニ不良良所発見セバ整備員二伝フルト共二黒板二記註スベシ

(8)地上待機中ハ常二飛行場二注意シ事故発生セバ真先二飛ビ出スベシ

(遠藤大尉)

(1)他人ノ嫌ガル事ハ率先之ヲ行フベシ 自己修養ノ道ナリ

(2)常二本日ノ気持ヲモッテ作業ニアタリ決シテ自惚ヲ起スベカラズ

(3)事前周到ナル準備ヲナシ三十分ノ飛行作業ヲ有効二過スベシ

(4)間違ヒテモ可ナリ  元気ナキハ最大ノ恥辱卜心得ヨ

(立見中尉)

(1)「チョーク」ヲ払フ際ハ必ズエンジンヲ絞ルベシ

(2)交代ヲ迅速二行ヒ交代終リタルモノハ外貌検査ヲ行ヒ飛行機ノ出発ヲ見送ルベシ 

 尚出発時「チョーク」ヲ払フ際ハ大キク明瞭ニナスベシ

(3)試運転ノ要領悪シ

(イ)全速回転ヲナス時ハ計器ガ正シク停止シテ後計測ヲ行フベシ

(ロ)1200回転ニテ左右「スウヰッチ」ヲ切換へ落差ヲ計測スベシ

(ハ)最微速回転ニテスウヰッチ切換ヲナシ止位置二於ケルエンヂン停止傾向ヲ見ルベシ

(ニ)油圧等ハ最大回転時ノモノナリ

(4)搭乗直後直チニ二方「コック」ヲ見ルベシ

尚後罐ニ切換へル時機ハ1時間45分経過後燃料ノ旗上リタル時

 (橋本中尉)

(1)手入ノ際ハ故障ヲ未然二防グベシ  

(2)操縦ハ術ニアラズ  操縦道ナリト心得ヨ  地味ナル所二積極的ナレ  安キニ就カントスルナ

(3)学生舎ノ出発時整正ナルベシ

(掲示)

(1)中継事項ヲ確実ニ行フベシ

(イ)発動機、機体ノ状態

(ロ)何操縦装置・変更位置

(ハ)天候、視界、雲高、風速、其ノ他

(ニ)飛行場ノ状況(不良地面ノ位置)

(ホ)燃料、使用罐、残量

(へ)諸計器ノ良否

(ト)引込脚二テハ脚作動ノ良否「フラップ」 ノ状況

(チ)其他必要卜認ムル事項

(2)卓抜ナル操縦ハ努力ニヨッテノミ得ラル 操縦二天才ナシ

(3)航空事故調書

(一)諸例則巻之一

(二)海軍航空隊職員服務規定

(4)航空事故調査表

(一)機密聯合航空総隊法令

(二)海軍練習航空隊総隊事故災害速報規定

(5)航空機大破

(6)航空機故障欠損表

(7)航空機破損修理区分

     (2--24 航本機蜜1796

(イ)大破

主要ナル部品ヲ毀損シ工作庁二於イテ大修理ヲ要スルモノ又ハ修理不能ナルモノ

(ロ)中破

実施部隊二於イテ修理可能ナルモ部品ノ交換ヲ要スルモノ 工作庁二於イテ相当大ナル修理ヲ要スルモノ

(ハ)小破

 軽微ナル部品ノ交換又ハ小修理ニテスムモノ

 

181013(水)離着陸同乗

(立見中尉)

(1)第四旋回点ト飛行場トノ距離ヲ常二正シク一定タラシムベシ

(2)着陸後ノ直進ヲ常二念頭二置クベシ

(3)飛行場附近ノ著明物標ノ方位ヲ知得シ置クベシ

(掲示)

吹流ニヨル風力ノ見当

(1)4〜5米吹流 30度 大キナ皺ガ尾部ヲ振ル

(2)6〜7米吹流約15度 大皺ノ中二小皺アリ

(3)8〜9米吹流約5度 小皺ノ中ニ大皺流ル

(4)十米以上吹流上二立ツ

(所感)

(1)操縦者ハ飛行機活動ノ本源ナリ  機上ハモトヨリ常二不断ノ努ニヨリテ コソ其ノ目的ハ達成セラレナラン

少シノ失敗二拘泥セズ更二勇猛心ヲモッテ邁進スルコソ吾人ノ本分ナラン

 

1014(木)特殊飛行同乗

′(隊長)

(1)一昨日発動機火災ヲ起セシ事故アリタルモ此等事故二対シテハ常二注意ヲ払ヒ原因探究、処置等ノ研究ヲナスベシ

(2)火災ノ原因トナルモノ次ノ如シ

(イ)滑走中地面不良ニシテ跳躍スル際爆音途切レル事アリ(気化器中ノ浮子ガフレルト燃料停止スルコトアリ)

其際「エソヂン」ヲ少シ入レレバ良キモ過度ナレバ燃料オーバーフロー」シ火災ヲ起ス

(ロ)起動時注射過度ナル時

(3)常二消火器ヲ準備シ即応ノ心構えエアルヲ要ス

(4)火災1ニハ「エソヂソ」ヲ一杯入レテ消火スル場合アリ

(分隊長)

(1)離陸時ノ目標不良ナリ

(2)離陸点悪シ  充分ノ滑走距離ヲ取ルベシ

(立見中尉)  飛行前注意

(1)宙返りノ際左足操縦梓ヲ緩メルベカラズ  傾斜ヲ直スベシ

(2)垂直旋回ノ際「バンク」ヲ大ニシナイ事  目安ヲ合セル事

  飛行後

(1)絞弁ヲ前後席ノ反対側二操作スルトキハ連結捍曲り危険二陥ル事アリ  

(2)急降下二移リテカラ「エンヂソ」ハ絶対二入レルべカラズ  空中分解ノ慮アリ

(3)錐揉ハ必ズ1200以上ヨリ800マデニ終了スベシ

 

1112(金)灘着陸同乗 単独

(高橋中尉)

地上滑走中翼ニ人員ヲ乗セクルママハ不可ナリ

(室町飛曹長)

(1)出発点マデ来ラバ直チニ離陸スベシ

(2)離陸時飛行機の向きニ注意スベシ

(3)アヤフヤナル時ハ必ズヤリ直スベシ

(4)距]裕アル操縦ヲ常ニナスベシ

(5)地上滑走中常二舵二余裕モタベシ

 

1115(月)離着陸同乗 単独

(分隊長)

現在単独ヲ許サレタル此ノ機ヲ利用シ大イニ胆ヲ練り或ハ自己ノ長短ヲ知ルヲ得ルモノナリ 

大事故ハ概ネ技倆ガツキタ頃ナルヲ銘記スベシ

 

1119(金)編隊同乗

(室町飛曹長)

(1)機位の目安ヲ確実二把握スベシ

(2)一番機ハ規定高度速力ヲ成シ得ル限り保持シ水平直線飛行ハ正確ナルベシ

(3)旋回ハ最初ノミ徐々二入レルベシ

(4)左右ノ修正ハ「バンク」ヲ使ウ事ナク足ノミニテ行フベシ 尚一番機ノ内側二入ラザル様注意スベシ

(5)外側旋回ノ際機首ヲオサヘル事ヲ忘ルべカラズ

(6)他機ヲ絶対二死角内二入レザル事

 

1122(月)縞隊同乗

(室町飛曹長)

(1)外側旋回ノ際機首ノ抑へ不足ナリ

(2)内側旋回ノ際ニハ「エソヂン」ヲ絞り機首ヲ上ゲツツ待ツ  踏棒ノ操作過大ナリ

(3)水平飛行中高度低下ノ傾向アリ

(以下個人注意)

(4)エンジンノ管制ニ無駄アリ、修正セバ其ノ量ヲ見ル事肝要ナリ

(5)離陸時一番機ハ絞弁1−4マデハ緩徐二 其以後ハ普通二入レルベル

(6)横距大ニシテ一番機ノ運動二対スル処置緩慢ナリ

(7)後流二入り舵利カザルトキハエンヂンヲ絞り降下避退スベシ

(8)編隊二入ル際ハ機高差ナシ或ハ低高度ヨリ入ルベシ

(9)一番機ノ運動ハ如何ナル事ニテモ見逃スベカラズ

 

1213(月)計器飛行同乗 定着互乗

(隊長)

爾今水平飛行卜七十節トス

(分隊長)

(1)計器飛行終了後

(イ)計器止メ

(ロ)「ホロ」

(ハ)座席上ゲ

  (ニ)「着陸準備宜シ」

(ホ)要スレバ 「バンド」ヲ脱ス

(2)不良着陸後「ヂャンプ」シテ直チニ「E」ヲ入レルト爆音悪シ 「ヂャソプ」ニヨリ気化器ノ油面乱レ吸入二息ヲツクナリ

E」ヲ静カニ入ルベシ

(3)定着「マーク」ヲ決メル際四旋回ニテ前後ヲ見張り判断シ途中ニテ左右ヲ変ズベカラズ

(橋本中尉)

計器飛行ノ前後ニハ充分見張ヲナスべシ

(室町飛曹長)

(1)計器ハ地上二於イテ完全二整備シ万全ヲ期スベシ

(2)直線飛行  旋−球−針−昇−速ノ順序ヲ必ズフムベシ

(3)計器ニハ絶対二勘ヲ入レザルコト

(4)定針儀ハ十分間隔二修正ス 誤差ヲ生ジタル時ハ直チニ修正ヲ要ス

 

1215(水)計器飛行同乗

(分隊長)

(1)燃料系統ニヨル発動機停止ハ急激ニシテ余裕ナシ

(2)出発前オサヘル所ヲ必ズ当ツテ見ルベシ  順序ヲ決メ置クヲ可トス

(3)「E」停止セバ直チニ燃圧油圧ヲ見、燃料「コック」「バタコック」気速六十五節

接地前ニ「スウヰッチオフ」二方「コック」火災二注意セヨ

(4)接地後上空ノ飛行機ニ人員ノ無事ヲ知ラスコトヲ忘ルベカラズ

(5)土民ヲ近附ケザルコト 機密保持、保安

(橋本中尉)

燃料系統ニヨル不時着ハ搭乗員ノ大恥ナリ

(室町飛曹長)

(1)5度以内ノ修正ハ足ノミ

(2)5−10度ハ「バンク」 普通ノ半分

(3)10度以上ハ普通ノバンク

(4)旋回時機首ノ上下二注意スベシ

 

1223(木)編隊互乗夜間定着同乗

(隊長)

(1)夜間飛行中風向変ジクル時ハ指導灯「カンテラ」ヲ消ス 空中ノ飛行機ハH500ニテ誘導「コース」ヲ廻ル

定着場整備セバ各飛行機ニR連送

(2)夜間作業ノ実施態度不良ナリ 積極的二又良ク地上指揮官ヲ補佐シ円滑二作業ヲ運ブベシ

(分隊長)

(1)夜間定着二於イテハ地上ニテ追突スル危険アリ

指揮官ノ令ニヨリ「オルヂス」ニテ短符連送 間二合ハザルトキハ指導灯ノ「ランプ」ヲ消ス

(橋本中尉)

(1)編隊離陸ノ際1番機ハ「E」ノ出入ヲナスベカラズ

(2)単機離陸ノ際ヨリ滑走距離ハ伸ビザルコトヲ注意スベシ

(3)「E」ヲ繚リスグ

(4)離レテ再ビ接近スル時ガ一番危険ナリ 1番機ハ必ズ列機ヲ見ルコト 其ノ際ハ「E」ヲ絞ルハ危険厳戒

(5)一番機ハ旋回大ナル時ハ「E」ヲ出シツツ行へバ可ナリ

(6)二番機ハ解散セバ直チニ一番機ニ続イテ降下シツツ間合ヲトルベシ

(室町飛曹長)

(1)列線ヨリ出ヅレバ直チニ離陸スベシ

(2)横風ノ時ハ第4旋回点ニ注意シ偏流ヲ修正シツツ「オーバー」又ハ左右偏倚ナラザル様注意ヅベシ

 なにわ会ニュース39号35頁  昭和53年9月

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