平成22年4月16日 校正すみ
若月の最後
旭 輝雄
昭和十九年十月二十五日二〇五五、軽巡五十鈴は防空駆逐艦初月、若月と共に惨憺たる対空戦斗を終り暮色濃き非島沖を名瀬港へと急いでいた。間もなく九時、対潜哨戒に入る。
何とか危険より脱したかと思っているとき五十鈴の右正横二、三十米の処へ水柱が六本マストより高く、スボーと挙った。艦はまさに砕けんばかり震動した。当時艦橋の模様は
電探 「右110度艦影らしきもの」
艦長 「最大戦速、砲雷戦」「面舵、敵艦隊へ宜侯」
見張 「右110度敵大艦隊」・
見える 見える 三十数隻の艦影が水平線に
発射管室 「発射管故障、動きません」
水雷長 「故障個所はどこか。直ぐ調べよ。」
いよいよやられるか、砲側照準と人力操舵でせめて魚雷だけでもブッ放せ！
その時、若月の信号灯が
「ワレタンドクトツニュス キカンナラビニハツツキノケントウヲイノル」
そし夜目にも白く艦尾より水煙を上げつつ全速力にて突っ込んで行く、全火力を開き、真赤な火柱が艦より敵艦隊へ飛んで行く、次第にその姿が小さくなって
艦長 「取り舵、元の針路。初月へ、旗艦の後に入れ」
十五分も走ったか、あたりは真の闇に閉ざされた。遥か右後方に真赤な火柱が天に沖した。
忘れざる一瞬、正に一艦特攻ではなかったか。 知られざる一艦の最後をクラス生存者と共に葬らん。
（なにわ会ニュース02号４頁 昭和３９年５月から掲載）