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回天の不発問題

小灘利春 

回天が突撃して見事敵艦に命中しても爆発せず、無念にも轟沈の願いを果たすことなく自爆に至った事例が、判明したけでもいくつかある。

1 金剛隊作戦で、伊36潜から20年1月12日ウルシ−泊地に向け発進した回天1基が5,450トンの弾薬輸送艦マザマの船体前部に命中した。しかし爆発したのは37米とおりすぎて後であった。その水圧と爆風で乗員21名が死傷、船体に亀裂が入り船倉が水浸しになった。曳船多数の救援活動が功を奏して沈没は辛うじて免れたものの、修理のために同艦は長い期間、行動不能になった。揚荷中の関係で同輸送艦の艦首のほうが浮き上がっていたこともあるが、搭乗員の判定よりも喫水が浅く、回天が命中時に横腹から下に逸れて艦底を擦ったと思われる。船体の底に回天の司令塔が食い込んでいた。弾薬を積んでいたのであるから若しも命中の瞬間に回天が爆発していたら輸送艦は文句なしに轟沈した筈である。早朝の攻撃であったが、夜暗くなるまで米軍艦艇は泊地内を捜索し、潜航艇?を発見しては爆雷投下を続けた。この日LCI-600号が沈没している。

 

2 同じく金剛隊で伊47潜から発進してホ−ランジア泊地の敵輸送船団を攻撃した回天の1基は輸送船ポンタス・ロスに命中した。しかし爆発せず、90米はなれてのちに大爆発した。船の横腹に凹損が残っていたが、構造が堅牢な船首の前方で爆発したのでその衝撃による損傷はなかった。

 

3 多聞隊の伊58潜から終戦直前の8月12日発進した回天は、最初ドック型揚陸母艦オ−ク・ヒルを狙ったが、突進してきた護衛の駆逐艦「ト−マス・ニッケル」に目標を転換、これに命中した。艦内にいた乗組員たちは駆逐艦の横腹をゴリゴリと擦ってゆく異様な音響を聴いている。しかし回天は爆発せず、走り過ぎた後で大爆発を起こし、駆逐艦は片舷の主機が使えなくなった。若しも命中の瞬間に搭乗員が手動スイッチを押していたら間違いなく轟沈するところであった。

回天の実用頭部には九三式魚雷改三に使用された慣性式信管の二式爆発尖が装備され、更に九三式機雷用の電気信管があって、操縦席の横に手動の電気スイッチと信管の安全装置解脱ハンドルがあった。

最初に○六金物として設計されたときは、実用頭部の先端内側に機雷と同じ原理の接触式電流発生装置があった。

つまり三段構えの起爆装置であったが、回天一型になったときは三番目の装置は廃止された。命中したときに若し万一慣性信管が作動しなくても間違いなく爆発するよう、突撃に入ったのちは右手を手動スイッチに当てて命中を待つことが操法で決められいた。

(小灘利春HPより)

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