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伊37潜(菊水隊)の戦闘

小灘 利春

平成16年 1月16日

回天各4基を搭載し、昭和19年11月8日大津島基地を出撃した菊水隊の潜水艦3隻のうち、伊号第37潜水艦はパラオ諸島のコッソル水道に停泊中の敵艦隊を目指した。

艦長神本信雄中佐(当時階級)、

回天搭乗員は 上別府宜紀大尉、村上克巴中尉、

宇都宮秀一少尉、近藤和彦少尉 の四人である。

11月20日の黎明を期して奇襲攻撃を決行する作戦であり、前日敵地周辺に到着し攻撃地点の事前偵察を行う予定であった。

第六艦隊の判断では同水道に戦艦4隻、輸送船39隻、駆逐艦ほか多数が停泊中の筈であった。19日朝、パラオ島の北にあるコッソル水道の西口で防潜網の展張作業をしていた設網艦ウインターベリーは0858潜水艦を発見した。距離約二千米、遮るものがない海上ではかなり近い。それも潜望鏡の先端を見つけたのではなく、大型潜水艦が突如浮上したのである。1分後に潜航したが、再び浮上し、潜没。これを二回繰り返した。いずれも垂直に近いような急角度の海面浮上であったという。潜航中の潜水艦は、機器の僅かな故障が、或いは一人の操作ミスが忽ち艦自体を危険に陥れる。何か、思いがけない異常事態が艦内で発生したのではないかと想像される。

天候は晴で視界良好、風力2の普通の海況であった。同艦は泊地司令官に急報、停泊中の護衝駆逐艦コンクリンとマッコイ・レイノルズが対潜掃討を命ぜられ直ちに出動した。

1055現場付近に到着した両艦はソナーで探索を開始、午後も捜索を続け1504コンクリンが遂に潜水艦探知に成功した。

 

レイノルズは1539からヘッジホッグを2回発射、爆雷13発の攻撃を行ったが効果なく、目標を見失った。

コンクリンが探知し、今度は同艦が攻撃を担当、1615ヘッジホッグを発射し、小さい爆発音を一つ聞いた。

続く2回と爆雷攻撃の1回は反応がなかった。しかし、レイノルズが再度爆雷攻撃を行い、折り返して再び投射しようと接近したところ1701海を震わせる恐ろしいほど巨大な水中爆発が発生した。

そのあと同艦は爆雷を投射したが、投射していない時期に、海中深いところで原因不明の水中爆発が次々と起こり、巨大な茸のように黒い泡が海面に立ち上がった。爆雷攻撃では普通は発生しない現象である。

この爆発でレイノルズの音響兵器は狂ってしまった。

ヘッジホッグは24個の小型爆弾を潜航中の潜水艦を包み込む形に一斉に前方投射する、米英海軍が開発した対潜攻撃兵器である。各爆弾は、潜水艦に当たらなかったものはそのまま沈下するが、命中すれば爆発して艦体に

直接損傷を与える。一発の炸薬量は僅か14kgであるが、これで充分な効果があった。潜水艦の船殻に損傷を与え、或いは浮上不能にして撃沈する。駆逐艦はあと、海面に浮き上った木材その他の断片を多数揚収した。

潜水艦が沈むときは普通、物体が細かく切断されて浮かぶことはない。それで米艦側は、或いは潜水艦内部での自爆かと推理した。

伊37潜はヘッジホッグのー発が致命傷になったか、爆雷による損傷が累積したか、或いは艦内の事故か、ともかく万策尽きて、搭載した回天による自爆を選んだ可能性がある。その場合は搭乗員が交通簡を通って乗艇し、電気信管を作動させるであろう。浮上砲戦は新兵器回天を秘匿するため取り止めたと思われる。

或いは既に、最後の浮上が出来ない状態であったかも知れないが、事実は知る由もない。

伊37潜は昭和18年3月に就役、印度洋の通商破壊作戦で活躍し、大戦果を挙げた有名な艦である。戦時中の記録映画「轟沈」にも登場し、今も映像でその姿を見ることができる。19年8月内地に帰投し修理を終えて直ちに回天作戦に参加したのであるが、菊水隊当時の同艦は映像も写真も、如何なる経緯か現在残っていない。

さきの大戦で日本海軍は128隻の潜水艦を喪失した。うち交戦によらない原因不明の戦没は、日本潜水艦史によれば26隻にも及ぶ。別の資料ではこれが34隻と算定されている。その殆どが諸機器の故障、操作の錯誤乃至は遅れによって沈没した事故と推定されているが、

伊37潜が任務遂行前の交戦を招いたのも、これら不慮の事態からと思われる。若し同艦が翌20日黎明まで潜みつづけていたならば、発進した回天4基が驚天動地の大威力を発揮したことであろう。

しかし伊37潜は雄図虚しく、パラオ島の北方約30浬の北緯8度7分、東経134度16分の地点で沈んだ。

米軍の側としては望外の幸運を掴んだのであるが、回天を搭載した恐るべき相手を沈めたとは戦中、誰も気付かなかった。伊37潜は出撃以後一切の連絡がないまま未帰還となった。公報では搭乗員は作戦計画どおりの昭和19年11月20日に戦死、潜水艦は12月6日パラオ近海で沈没、となっている。

(小灘利春HPより)

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