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平成22年4月28日 校正すみ

戦没者の便り

故福田 

母上宛の手紙(昭和151230日)

入校1ヵ月目

本日良一君よりのお便りによりますと、母上様にはお風邪気味との事、案じています。如何ですか、この2、3ケ月母上様は極めて御多忙に渡らせられましたから、そのお疲れが出たのでございましょう。十分御注意遊して1日も早く御全快下さる様祈り上げます。母上様には私が楽しい家庭を離れたことに対し悲しい思いをされた事と想像いたします。私も海兵、海兵と思い只一筋に勉強致していました折は、家庭から離れるという事について夢にも考えた事は御座いませんでしたが、今茲に静かに永かりし19年間を回顧し、一人前になる迄育んで下さいました御両親様の膝下が如何にスイートホームであり極楽であったかを充分認識して感無量のものがあります。

出発の前夜、母上様の許を離れる事を考え、胸の塞がる思いをした事を思い出します。然しながら人間は遅かれ早かれ、一度は家郷を離れて単身社会へ出なければ真に大成することは出来ますまい。それを思うと母上様も決して御悲嘆遊ばされることはございますまい。

広い世界を唯自分の実力を以て乗り切ってゆくのだと思うと大いにやるぞと思わず心が張り切ります。今后一家揃って楽しむ機会はそう多く御座いますまいが、之が人間社会の通則でありますから、御悲嘆遊ばされず私の進歩向上を見守って下さい。 大変気の弱い様な事を申し述べましたが、私自身は父上様からも御注意がございまして、決してホームシック等にはかかりません。(かからぬ様に母上様からも御指導をえたのですもの)大いに愉快に元気にやります。

扱て、輝かしき2,600年もあと2、3日になりました。此の手紙のつく頃は御正月のよき日を母上様は御祖母様と瑞穂さんと楽しく御過しの事でございましょう。

私も来年は(といってももうすぐですが)20歳です。世間では20歳は完全な大人として取り扱われる事でありましょう。大いに修養せねはならぬと存じている次第でございます。然し乍ら相変らず、のんびりで修養の方法はどうしようかと探している所です。修養の方法は手近にあります。御両親様の庭訓が大なる効果がございますと信じますから是非御教訓下さい。

兵学校生活で最も愉しいものの一つは手紙でございます。毎日分隊に、2、30通来る。手紙の中で自分のものを発見した時の喜びは筆舌に尽し難いものがあります。特に家からの手紙は先生方の通り一ペん式な手紙よりは嬉しいです。御暇の折は新聞の社説でも切り抜いて送って下さい。然しこちらからの便りは、今后必要なき限り葉書に致し度いと思っています。叉私よりの通信がない時は元気でいるものと御信じ下さい。

今迄風邪一つひかず霜焼にもかからず、暮して居ります。では母上様今年は瑞穂も中学3年ですし、御用も御座いますまい。充分に御休養下さる様願い上げます。

母上様が御病気ですと僕まで気が変になりますから。御祖母様へもよろしく。

小包受取りました。有難うございます。

 

昭和151230

英より

(なにわ会ニュース21号31頁 昭和42年5月掲載)

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