平成22年4月29日 校正すみ
元木恒夫君を偲んで
鬼山 茂樹
（註）元木君が昭和20年３月台湾の台南基地で、分隊長として九六艦爆特攻隊編成のための訓練中に書いた御母堂様宛の手紙、当時の台南基地司令増田正吾海軍大佐（50期）の御遺稿集（赤蜒賦）、私が台湾から復員し郷里 福岡に帰った直後御母堂様宛差し上げた手紙・・・いずれも元木 正様保管・・・によって、昭和20年の初め頃より５月13日の特攻出撃までの元木君について、今回の墓参を機会にまとめたものである。
元木恒夫君は、昭和19年７月百里ケ原航空隊の艦攻実用機課程を終了し、台南空付兼教官として台南基地に赴任した。
昭和20年初め内地転任の命令を受けたが、近く練習機（九六艦爆）による神風特攻隊が編成されると聞くや、率先志願し、その分隊長を命ぜられ訓練を開始した。
昭和20年３月28日付の御母堂様宛の最後の手紙（実質的遺書）
謹啓
初夏の候と相成候処母上様兄上様姉上様敬子、克美には益々御壮建の事と拝察仕居候 降って小生至極壮健乍他事御休心披下度候
航空便を度々頂き内地の様子手に取る如く解り懐かしく存居候
１月２日太郎兄には壮烈なる御最後小生は出し抜かれし感及只今の不甲斐なき生活唯々残念に存居候
小生の活躍も近々内と愚考致居候、沖縄に敵は来襲し台湾孤立と相成も決して玉砕など致さず必ず敵を全滅致す可期居候
手紙の宛名は鹿屋航空基地気付イ218虎隊士官室航空便の時は虎尾基地気付イ128虎隊士官室で御願申上候
思うが儘好機会に恵まれし本便にて御伝致可候 御守フヰルム御守袋拝受致候
先日某基地にて特攻隊の命を受けし時の光景を拝し候（頭の下る思いでした）や〜もすると気軽に「特攻をかける」と言葉に出すも軽々しく口に出すべき事ではないと存居候
「クラス」よりも多数の特攻隊員進発し残る者僅かに相成候
内地も空襲でさぞかし御多忙の事と存居候
御奮闘を御祈致居候 当地の空襲は日課に相成候えば、御安心披下度候
先日は霧中にて飛行場を見失い、霧の中で列機２を率い１時間程迷い歩き、やっと飛行場を見出せし時の喜びは、飛行中母上様の事を念ぜし為、母上様の御念仏の御陰と存居候
敬 具
３月28日
母上様
追伸 爪など入れるも決して御心配なく人の真似にて万一を思い入れたる次第にて決して御心配披下問敷候
（註）手紙の中の「太郎兄」は従弟で塚本太郎氏のこと。予備学生で、ウルシィ．回天特攻で昭和20年１月戦死されている。
（註）以下は増田正吾海軍大佐の御遺稿集から抜粋した。
昭和20年４月16日
九六艦爆特攻隊忠誠隊の命名式あり。元木中尉を指揮官とする25名の青少年に対し、大西長官親しく諾々として説かる。日本に降服なし。１億必死となりて敵を迎え打たば、分悪くとも数百万を什し得べし。100年の後、神風の剣、祖国を救いし勇士ありしを語り継がん。恐らくは国の宝ともならん。長官更に書して与う。
青少之純 起神風
昭和20年５月９日
忠誠隊台東進出の日なり。これを帰仁基地（註台南基地の予備基地） に送る。このとき台北市高等法院上告判官草薙晋氏、令閨みさを様両名の名にて、息子 孚君の形見として、孚君が予備学生中、病死して戦場に出られなかったことを恨み、遺髪とマフラーを托さる。
特攻隊突入の際子息字の魂として同行されたしとの希いなり。
マフラーの一端に「必中を祈る みさを」とあり。
昭和20年５月13日
先に台東に進出せし、元木恒夫中尉隊は、この日宜蘭より沖縄方面進攻の敵機動部隊に突撃せり。
九六艦爆なり。
宜蘭に向って出発せんとするに際し、台東飛行場にて書き残せる遺書次の如し。
深甚なる御配慮御考察を謝す
天皇陛下萬歳
海軍中尉 元木恒夫
海軍中尉 久保良介
海軍中尉 柿本 茂
宮内大尉始め皆々様に宣敷く
増田大佐殿
（鬼山注） 当日私は九九艦爆特攻隊の一員で、宜蘭基地で元木隊の出撃を見送った。以下は昭和21年３月復員後差し上げた御母堂様宛の私の手紙の抜粋である。
「この日天候晴。多数の見送りの人々の日章旗の波に乗り、真先に基地を飛びたちました。
時間は午後２時30分。
電信機不良のため予定突撃時間となっても遂に連絡なく残念ながら最後の状況は不明です。しかし彼が米国の艦船群に突入したのは確実であると信じております。
彼は実に温厚篤実、海軍士官として模範的人物であり、部下も心服しておりました。
出撃２時間半前の中食は、七面鳥のすきやきで酒もあり、普段と変らぬ雰囲気で落ち着いて食事をしていた様子が今も瞼に焼きついております。」
昭和62年10月10日
佐原市観福寺の墓前で当時を思い起し感無量でした。
(なにわ会ニュース第58号16頁）