平成22年4月29日 校正すみ
宮林久夫君への弔辞
樋口 直
謹ミテ故海軍大尉宮林久夫君ノ英霊ニ告グ
君ハ生来 勇猛邁進 直進前ノ気概ニ富ミ 加フルニ頑健無類ノ体力ヲ以テ 夙ニ海軍ニ 志シ 東亜ノ風雲急ヲ告グル昭和15年 我等600ノ若人卜共ニ 第72期生徒トシテ光輝アル江田島海軍兵学校ノ門ヲ潜リタリ
爾来３星霜 四号時代ニアッテハ其ノ負ケジ魂卜純真ヲ以テ 上級生ニ愛セラレ 二号時代ニ在ッテハ 率先躬行卜不言実行ヲ以テ下級生徒ノ範タリ
又一号時代ニアッテハ 不屈ノ戦闘精神克ク江田島70年ノ伝統精神ノ精華ヲ発揮シ 下級生誘導ニ当り寛厳宜シキヲ得タル 洵ニ 同期ノ嘱望、下級生ノ親愛、君ニ勝ルハ無カリキ
降ッテ昭和18年９月 全国民、全海軍ノ輿望ヲ双肩ニ兵学校ヲ卒業 当時 日ニ日ニ利アラザル戦局ヲ挽回スベク 衝天ノ意気ヲ以テ第１線ニ就キタリ
君ハ新鋭ノ航空母艦「飛鷹」ニ甲板士官卜シテ配乗 最モ多端ノ戦局下 早ク航空作戦ニ挺身セリ
曽テ海軍ノ大先輩日ク「海軍ニ於ケル最モ困難ナル配置ニ３アリ 曰ク潜水艦長 駆逐艦通信士 空母ノ甲板士官ナリ」ト
当時ノ副長 曽テ謂へラク「従来 空母ノ甲板ニシテ 余ノ意ニ満ツル者１人モ無カリシニ今宮林ヲ得テ一点非ノ打チ処無シ 良クゾ勤メ終セ夕ルモノ哉」ト
君ノ面影 以テ其ノ一端ヲ伺知シ得ベシ
飛鷹ノ武運拙ク「サイパン」沖ニ万斛ノ恨ヲ呑ムヤ 君捲土重来ヲ期シテ駆逐艦「杉」ニ通信士トシテ勤務 日夜猛烈ナル訓練ニ従事セリ
思エバ当時 余ハ横須賀通信学校ニアリ 一日同校士官室ニ君卜久潤ヲ謝セシガ最後ニナラントハ 今君ノ霊前ニ待リ感無量ナリ
「杉」ニ於テ戦闘ニ参加スル事１ヶ年 乾坤一擲ノ決戦トモ言フベキ比島沖海戦ニ於テハ 「コッソル」水道ニ「バラナカン」ニ偉功アリ 其後引続「レイテ」「タクロバン」「オルモック」方面ノ輸送任務ニ従事中
昭和19年12月７日ノ対空戦闘ニ皇国ノ必勝卜天壌無窮ノ皇運ヲ確信シツツ 護国ノ鬼卜化セラレタリ
昭和20年８月15日 停戦ノ大詔換発セラレ 茲ニ ４歳ニ渡ル聖戦ノ干戈ヲ収ムルニ至レリ 今我オメオメト生キ永へ君ノ霊前ニ在リ 慙愧之ニ過グルモノナシ 然リト雖モ生存ノ我等 恋々卜君ノ死ヲ哀ミ弁々卜日ヲ過スモノニ非ズ 誓ッテ君ノ死ニ報ヒ 邦家百年ノ大計ヲ樹立セン事ヲ期ス
希クハ君刮目シテ待テ
今君ノ霊前ニ72期級友トシテ 皇国ノ再建ヲ誓フモノナリ
願クバ在天ノ英霊来り饗ケヨ
昭和21年１月30日
海軍兵学校第72期級会代表
樋口 直
（なにわ会ニュース66号53頁 平成４年３月掲載）