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有志会員のAさんのブログから
その前にまず、出撃が決まった多々良隊のメンバーを紹介します。
隊長・柿崎実中尉(海兵72期)
前田肇中尉(予備学生?)
山口重雄1曹
古川兵曹
横田寛2飛曹
新海2飛曹
その日、「本を読む」と言って基地に残った前田中尉以外の5人が上陸しました。ところが、3人はいち早く雲隠れしてしまい、気がつくと残ったのは柿崎隊長と横田兵曹2人。
横田兵曹は当時、松政の存在すら知らず、どこに行くのかいぶかりながらも柿崎中尉についていきます。
松政に連れて行かれ、おしげさんと対面します。
『おしげさんは、三十をなかばすぎた、ふっくらした感じの人だった。隊長はこういって私を紹介した。
「かあちゃん、この男はね、こんど俺といっしょにゆくことになったヤンチャ坊主だ。小さいとき、おふくろが死んでね。・・・・だから、かあちゃん、きょう一日でいいから、こいつのおふくろになってやってくれんかな」
隊長が”かあちゃん”というとき、私は思わずふきだしそうになった。が、見ると、隊長は大まじめである。おしげさんのほうも、少しも悪びれたようすもなく、ハイハイと答えている。
「柿崎さん、お酒つける?」
「いらんよ。こんな坊主に酒なんか飲ましたら、おぶって帰らんならん。大津ならいいが、光は汽車に乗らにゃいかんからな・・・・」
そういう隊長をさえぎって、
「隊長、飲みましょう。俺だって強くなったですよ。この前なんか、新海とふたりで、ウイスキーを一本あけちゃった・・・・」と、これは私である。そのころ、ようやく酒を飲みはじめたばかりで、やたらと酒への好奇心が強かったのだ。
「ほんとうかあ、とんでもねえやつだな。・・・・そうか、おやじがよく飲むのか。じゃ、おやじの血をひいたんだな、きっと」
「まあ、いいじゃないの。万事、かあちゃんにまかしとき・・・・」』
一般にはもうお酒など残っていないころだったのですが、おしげさんは搭乗員のために苦労してとっておいてくれたようです。
『三人で昼の酒盛りがはじまった。飲めるといったところで、隊長と私などタカが知れている。たちまち酔っ払ってしまった。しかも隊長など、すっかりいい気持になって、おしげさんの膝をまくらに、詩吟などをうなっている。しまいには、
「四時になったら起こしてくれよな、かあちゃん」といってグウグウ寝てしまった。
こちらは初めての場所で、しかも相手は初対面である。酔っても、どことなくかた苦しい。おしげさんは、隊長の軍服をぬがせて、介抱している。つぎに靴下をとって、雑巾で足をていねいにふいてやっている。ふきながら、
「みんな、かわいいのよ。・・・・柿崎さんはいつもこうなの。・・・・いい人でしょう」
話しかけるように、つぶやくように、そんなことをいった。私はそのしみじみとした調子に、ふっと胸をつかれるものをおぼえた。』
多々良隊出撃前に、光基地にて壮行会が開かれました。
滅多に光基地に顔を出さなかった第6艦隊所属第一特別基地隊司令官・長井満少将までやってきたそうです。
上層部の激励の言葉の後、乾杯。
横田兵曹も調子に乗ってぐいぐい飲みます。
橋口中尉が「海ゆかばをやろう」と言い出し、みんなが歌ってくれたそうです。
(「橋口中尉」というのは、柿崎中尉と同期の橋口寛中尉? 終戦直後、自分の乗るはずだった回天のそば(中?)で自決)
そのあとも壮行会は続き、横田兵曹もさらに飲まされ,
『気がつくと、隊長、前田中尉、古川兵曹がスクラムの中にはいって、回天節をいっしょに歌っている。ふらつく足で、私もその中にはいっていった。』
ドン亀節、九軍神の歌、はては炭坑節(?)。
2200、多々良隊の万歳三唱をもって散会。
柿崎隊長と前田中尉はそこからさらに士官個室に引っ張って行かれたとか。
横田兵曹と新海兵曹は気分が悪くなり、動くこともできなくなっていました。
『「おい、水でも飲みてえなあ」
新海がまっかな顔で話しかけてくる。
「しっかりしろ! なんだ、一パイや二ハイの酒に負けて、それでふたりで空母二ハイなんて、ブッつぶせるか!」
だれかが肩をたたきながら、大きな声でいう。見ると、神津少尉だ。
「もうだめです。部屋までつれていってください」
新海が情けない声を出して、哀願している。
「だらしのないやつだなあ。ふたりとも、立てっ!」
いつもはおとなしい神津少尉が、珍しく大きな声を出している。大の男ふたりでは、さすがに処理に困るだろう。が、とにかく、ふたりとも神津少尉の両手にすがって自室までつれてきてもらった。』
もちろん、横田兵曹はその後のことは何も覚えていないそうです。
そして、翌日、案の定の二日酔い状態。
しかし、二日酔いなんていっていられません。その日もやらなければならないことがたくさんあったのです。魚雷搭載の立ち合い、身の回りの整理、酒保物品の受給・・。
まず、同室の3人(新海兵曹、山口兵曹、古川兵曹?)を叩き起しておいてから、隊長の部屋に向かいました。
『部屋にはいって、思わずふき出してしまう。せまっくるしい一つのベッドで、隊長と前田中尉が、ヒゲ面をつき合わせて、まるで新婚の夫婦のように抱き合って寝ている。
前夜の「士官個室」での宴会とやらのすさまじさが想像できそうです。
『「隊長! 前田中尉! もう朝ですよ」
二、三度声をかけると、隊長が目をあけた。しばらく口をとんがらせて、ボンヤリしていたが、私と視線があうと、まっ白な歯を見せてニヤッと笑った。』
酔っ払った上の同衾ですが、お二人、どのような夢を見ていたのでしょう・・・・。