平成22年4月28日 校正すみ
遺 書
(コレヒドール水上特攻で20、2、20戦死)
中島 健児
小生、ただ本望に御座候、大東亜戦争熾烈、其の度を加ふる時、特攻隊々長として南海の華と散る、「水漬く屍」之武人の本懐に御座候はずや。
小生特攻隊々長を命ぜられ候より、更に身に余る君恩唯々感泣の外之無く、一身一命以て鴻大なる君恩に報い奉るべく心に期し、訓練に訓練を重ね候。唯此の決戦の為に、必ず之を転機と為し、一億一心、幾多の困難を排し、大東亜の黎明は勝利の栄光と共に、近き将来に来るものと信じ居り候。此の身は滅すとも、其の魂は不滅、常に大日本と共に在り。
尚、部下はよく小生の命に従い、善戦奮闘良くその任を全うし、小生更に部下に対し、心残す処無く、唯、感謝あるのみ、部下も亦各々心残す処之無きものと存じ候、′部下の御遺族の方々に御面会の節はくれぐれも宜敷御伝へ下され度く御願ひ申し上げ候。
最後に末筆乍ら、平素の御不孝、御無礼は平に御容赦下され度く、伏して御詑び申し上げ候。
母上様′、どうか御体を御大切に、気をしっかり持たれ、弟達の為に末永く末永く一家の柱となられんことを切に御祈り申し上げ候。
敬具
母上様
(追記)
一、近所、親類の方々には呉々も宜敷
一、借金、無し
一、女性との関係、心配無用
一、横須賀市若松町50、一本彦治様方には写真御送り下され度 種々御世話になりましたから
国思ふ 我が真心は梓弓
弦を放れし矢の一筋に
(父の訃報に接し)
父はよし 永の旅路に出づるとも
我は磨かむ 己がほこさき
弟よ、「武人の一生は連綿不断の戦闘に在り」とは東郷元帥のいわれた言葉、然し現在は武人ばかりではない。戦さに行くばかりが日本人ではない。兄さんは2人にいう。もっと優秀な兵器を、もっと多量の弾薬を前線に送れと、2人共、日本の科学を、技術をもっともっと進歩させてくれ。これが唯一の兄さんの望みだ。
2人共健在なれ、そしてお母さんに兄さんの分まで孝行なさい。
いろいろ面白いこともあったなあ、また悲しいことも、
淋しいことも しかしこれからだ。2人ともお国のために働いてくれ給え
では さようなら
(なにわ会ニュース12号22頁 昭和42年9月掲載)