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「海軍兵学校における後輩指導について」
元海軍大尉 小河美津彦 72期 2022/9/14
なにわ会幹事 小河昌彦

わたくしの父、小河美津彦が生前著述してあったものを清書し、ここになにわ会の方々に公開します。
海外に冠たる日本の海軍兵学校の分隊生活から、学んで欲しいという願いがあります。 

海軍兵学校の制度で最も重要なものに分隊制度がある。

これは、全生徒を学年毎に1分隊から48分隊(昭和16年度)までに分け、第一学年(4号生徒)から第4学年(1号生徒)までの各学年生徒が1個分隊を構成するわけである。

◎分隊毎に自習室と寝室が与えられ、同分隊員は1号から4号生徒まで同室に起居した。ここで上級生が下級生の「生活指導」にあたり、将来の指揮官として如何にあるべきかを文字通り行住坐臥、理屈でなく身体で教え込んだのである。

 武道、相撲、短艇等の訓練や団体競技も、おおむね分隊単位で行われ一方、学科や実習などの教科に属するものは、各学年別に4個分隊一教班として教班毎に行われていた。

◎ 分隊生活の中で「対番」という特色のある習慣があった。対番とは同分隊で各学年の席次の同じ者のことです。特に新入生徒に対して2年の対番生徒は親身の兄以上に親切に世話をしたものですある。

  入校当日、新入生に与えられる教科書、衣類等は綺麗に整頓されて机、ロッカーに収められ、すべてに毛筆で姓名が記入されてある。 また、兵学校生活の細部にわたっての説明を略図を添えてわかり易く書いたノートが机の中に入れてあり、その末尾に「以上ノ外、不明ノ点、困ッタコトガアレバ何デモ聞キにニ来イ。対番生徒 何某」と署名してある。そして日常生活すべてについて、文字通り手取り足取り教えてくれる。
 
 不慣れな故もあって目の廻る程忙しい新入生の、着替えからシャツのボタン付け、靴下のかき替えに至るまで、身の廻り全般に細かく気を配って、それこそ「痒いところに手が届く」ように、しかもあまり目立たぬように、実にさりげなくやってくれる。そして、対番は決して叱らない。

 一般の想像を絶する厳しい環境の中で、とまどうことの多かった新入生にとって、対番生徒の温かい心遣いがどんなに心身の支えになったか計り知れない。 恐い最上級生も、対番生徒の行為については黙認していたようであまり文句を云わなかった。(時々、もういい加減にしろ、ということはあったが…。)

 最上級生の厳しさについては周知のことだったが、一日が終わり新入生が心身共にくたくたに疲れてベッドに入ったとき、誰かが必ず「もう何も考えずに、ゆっくり寝ろ」と声をかけるのが常であった。
 また、日中は凄まじいまでの叱咤怒号をあびせながら、夜半ひそかに、眠っている新入生の肩に毛布をかけ直してくれる最上級生がいたことに気付いていた者は多い。

◎軍人として厳しく鍛える反面、自らの後継者として大切に育てようとの配慮が随所に見られたのである。
 私はこれまでの生涯に、兵学校の生徒館生活ほど、峻厳で、しかも懇切な後輩指導の例を知らない。卒業式で眼を赤くした新候補生を、在校生(特に最下級生)が涙で送る光景が見られるのも、この先輩後輩の絆の故である。
 近頃の大学の卒業式は、どうであろうか。

 

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