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遺     書

松枝 義久

  生ヲ皇国ニ享ケ天恵洽クシテ楽々悠々タル二十有余年君恩ノ宏遠深厚ナルー死以テ酬イントシテ余リアルモノニ候

 義久斯ニ大任ヲ拝シ恐懼感激措ク処ナク唯々身ノ光栄ニ戦クモノニ候

 一髪尚軽ク君命ノ重ナル今日程痛感セル事ハ御座ナク候

 身更ニ生還ヲ不期 親ニ先立ツ不幸ノ罪何卒御許シ下サレ度侯

 鶴脚ノ如ク細キ赤坊ニ米汁トギスマシテ含マセラレ或ハ病魔ノ払ヒニ時ヲ屡シテ御両親様ニハ幾度力御心配ヲオカケ申候

 義久今日ノ姿誠ニ御両親様ノ賜二候

 兄上様 姉上様 弟、妹ニ対シ我生涯ノ恩ヲ謝スルト共ニ小生ニ代リテ忠孝ヨク致サルベク御顧仕侯

 此ノ度ノ戦ハ百年戦争ニ候へバ忠ヲ楠氏ニ比シ孝ヲ尊徳ニ比サルべク候

 永ラク御附合ヒ下サレタ皆々様ニ対シ宜敷ク御伝へ下サレ度 尚若キ可愛ユキ数百ノ部下ノ御遺族ニ対シマシテハ誠ニ気ノ毒ニ候へバ小生ニ代リテ深ク謝シ下サレ度侯

 最後ニ謹ンデ大日本帝国ノ万歳ヲ御祈申上侯

 義 久

      昭和十九年十月

    御両親様

      たのしみは 彼方の空の紅を ただ一すぢに 思い込むとき

(ネットより)

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