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深井良君の手紙

深井紳一君(良の甥)が良の妹宅で発見した手紙


1944
1223 

母上様
「良ノ人生二十有余年、此ノ世ニ生ヲ享ケテヨリ唯今迄母上様ノ御恩ノ萬分ノ一ニモ報ユルコトナク先立ツ我ガ子ノ不孝ヲオ許シ下サイ。大君ノ御為ニ屍トナルコト程嬉シイコトハ有リマセン。母上様ノ御健勝ヲ御祈リシマス

良が兵学校卒業を目前に控え海軍士官としての生活に

希望と期待を表す母あての書簡

1943年9月13 

拝啓
朝暮秋冷を覚ゆる候と相成り母上様にはその後いよいよ御元気にお暮しなされ居ることと存じ候
私も唯今の処、身体の調子極めて良好にして兵学校の最後の生活を元気一杯過し居り候
さて、晴れの卒業の日も目前に迫り何かしら心中落ち着かざる如きもの此れ有り候
兵学校生活三ヵ年を顧み今更ながら月日の経つことの早きに驚き申し候
顧みて三年前あの東京駅にて母上様を始めとし親戚一同の方々に御見送りを受け候ひしことも私には昨日の如き心地此れ有候
 
「石の上にも三年」とか、私にとりましては江田島に於ける此の生活は極めて意義深きものにてそれだけに江田島生活が懐かしく感ぜられ苦しかりしこと楽しかりしことなど様々の思い出が眼前に浮び兵学校は実に良きところなりの感、深き次第に御座候
又、江田島に在るものには休暇こそ此の上なき楽しみには候へ共、其の上に尚楽しきことは卒業の日に御座候
自分は兵学校の教程を終り憧れの海軍生活に乗り出すことを思ふ時は心踊り、自ら明朗なる気持となり申し候
海軍少尉候補生の荷物は全部受取り大きなる行李に入れて既に任地に向け発送致し候も兵学校にて使用せし衣服類、靴など若干は小包として家に宛て発送仕り候間、適當なる所に格納下さるる様願上候
又小包内には唯今まで身に着け候ひて未洗濯のままのもの二、三此れ有り候ゆえその点御了承下されたく候
例年の如くに候はば卒業の日には父兄の方が来校し晴の卒業式に参列いたすことに候も今年は斯ることも無く、私達にとりましては桟橋より学校を離るる際反って何の心残りも起らず出発致し得る事と存じ候
卒業後の行動に就きましては紙面上詳しく申し上げることは許されず、又何処に行くかも御報せ致すまじく候
唯、母上様に御報せ致しますことは十六日の午後六時半ころ東京駅にて御面談致し得ることと存じ候
その旨姉上様にも御伝へ下されたく願上候
 若し御会ひ致し得ることと相成り候はば其の際に委細御話申し上げる所存に御座候 
気候不順の折母上様には此の上とも御体に気をつけ遊ばさるる様祈り上げ候 
又本郷氏に御会いの折は母上様よりよろしくお伝えくだされ度候 
右、江田島より最後の便りに御座候  皆様によろしく

母上様

      

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