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平成22年5月8日 校正すみ

菅井 超君を偲ぶ

  五郎

 彼が我がクラスの名物男の一人であることに異論をはさむ者はいないであろう。その彼がとうとう亡くなった。最初倒れたのは随分前のことであったが、その間もなくの頃、神戸の自宅へお見舞いに行ったが、何とも痛ましく、以降見舞いに行く気にはならなかった。

他の人の場合でもしばしば同じような気分になることは多いが、彼の場合は特にそうであった。あれ程元気で、クラスで一、二を争うほど長生きするであろうと思われた彼のことである。髪の毛は黒々として、万年青年のごとく、好奇心、探求心は何時までも少年以上のおう盛さであった。その彼が床にふせって、言葉も途切れ途切れに弱々しく、何を言おうとしているのか分からない有様であった。それだけに衝撃は大きかった。

その後、小康を保ち、神戸の大震災後は、一時、横浜の御子息の方で面倒を見ておられたらしい。遠方で葬儀にも参列出来なかったが、今はたた御冥福を祈るのみである。

彼は、神戸三中、私は六甲の裏側の三田中学、同じ兵庫県人として、一号時代を同分隊で過ごした。彼を知らない人には、少々付き合い難い面があったかもしれないが、本当の彼は至って善人であった。少々アクが強かったが、同郷人として理解出来ないことはない。

世俗の些事(さいじ)には拘泥(こうでい)しない研究心のおう盛さは飯の心配がない海軍が存在し続けていたら、恐らく彼は何某かの部門ではそれなりの評価をされていたのではなかろうか。

ただ、悲しいかな、敗戦後はお互い生活環境が一変した。そして、彼は関西人らしく、独立自存の道を選んだ。

しかし、彼の研究心おう盛な精神構造は余り海軍時代と変わった訳ではない。何といっても驚きは独学で翻訳の仕事を始めたことである。それも、名簿を見ると彼の職業欄には理工医法系各国語精密翻訳とある。外国語といえば、英語一つもろくにこなせない小生などには考えられない馬力である。これすべて独学によるもので、スーパーのスーパーたる面目躍如たるものがあると言うべきである。

古今東西、万国語とまではいかないにしても、これだけの看板を掲げるのには相当の心臓が要る。或は多少下請を使ったかもしれないが、自分も何ケ国かを研究したのであろうか。外国との貿易で栄える港町、神戸ならではの仕事といえる。クラスの誰だったか、彼の翻訳の成果について、聞いたことがあったが、結構それなりの仕事振りのようであった。

スーパーといえば、彼は 「俺はスーパーではない。トオルだ!」とむきになって反論したが、実はこのニックネームを進呈したのは、一号同分隊のこの俺様ではないかと思っている。本心至って真面目な彼は、親から頂いた由緒ある呼び名を勝手に読み替えるとは言語道断、失礼極まりないと思ったのであろう。ちなみに彼のお父上にお会いしたことはないが、母上は確か学校の先生だったと記憶している。要するにもともと真面目なのである。一号の時、柔道係は俺がやろうと思っていたが、強引な寝技の彼にお株を取られた。何しろくそ力が強くもう滅茶苦茶(めちゃくちゃ)でございますがナ。もう一つ得意の短艇係も飯塚勝男君がやりたいというので、お陰で小生はラグビー係という超閑職があてがわれた。今までラグビーなどやったこともないのに、派手な縞模様のジャージなるものをあてがわれた。そこは一号の特権、内緒でこれを下着の下に着込むと、冬の寒さが大分しのげた思い出がある。これは余談だが、しかし、このスーパーというニックネームほど、彼の真骨頂を現したものはない。少なくとも、私は心から親愛の気持ちを込めて、今でも彼をスーパーマンだったと思っている。

彼のご自慢の一つは江田内に係留されていた浅間か平戸の艦底を素もぐりで通過したというのである。生徒館横の岸壁なら少々危険であったろうに、馬力はあったが水泳はそんなに得意であったようには思えない。気の毒だったのは、十米の飛び込みで宙返り、背面着水して、背中は内出血で紫色になるは、おまけに褌も切れて振りチンの体たらく、それでもシレッとしていたくらいの豪傑だった。

戦後初めて、彼と付き合うことになったクラスの中には、彼の質問に悩まされた人も多かったことと思う。これとまともに付き合っていたら、身体は幾つあっても足りない。わからないことはわからないと突き放しても、彼は一向に何とも思っていない。こちらもシレッとしておればよい。その辺の付き合うコツが分からなかった人は、次から次へと舞い込んで来る彼の質問攻めに閉口したことであろう。それを知って付き合えば、彼は至って天衣無縫.いい男だったと思う。

いずれまた、誰もが冥土で彼と付き合うことになろうが.根は至って善人の彼である。仲良く喧嘩しいしいやろうじゃないかヒ考えている。どうか諸君もよろしく。

(なにわ会ニュース86号13頁 平成14年3月掲載)

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