平成22年5月8日 校正すみ
品川 弘君への弔辞
浦本 生
謹みて故品川 弘君の霊前に捧ぐ。
君は昭和15年12月、群馬県立藤岡中学より唯一人、海軍兵学校に入校、我等と共に護国の任に当る同期生の因縁を結びたり。
爾来、起居寝食を共にしつつ学び、また鍛うること３歳、昭和18年９月卒業、同時に飛行学生拝命、霞ヶ浦及び神ノ池航空隊にて学生教程を修了、戦闘機搭乗員として大村航空隊に配属、ついで201空特別攻撃隊要員として台湾に進出す。
日ならずして不幸にも両目に重傷を受け、失明寸前に至るも、入院３カ月半、手術２回、漸く右目のみの失明にとどまるを得たるも、ために地上勒務員となり終戦を迎う。
「戦局挽回の機は我等にて」と奮戦せる級友の過半既になし。君の心中察するに余りあり。
君、教育者の家に生をうけ、厳格なる中にも慈愛深きご両親、多くの兄弟に育まれ、天性生真面目、凡帳面にして温厚寛容なるは同期生全員の認める処なり。就中旺盛な責任感と謙虚なることは、海軍士官の必須徳目なるも、その中にあっても特出したる君の資性にして我が生涯の師友なり。
戦後京浜急行に入社するや、よき上司、同僚、知人に恵まれ、また、よき伴侶を得、理想的なる家庭とあい俟って、その実力を発揮せられしこと、論をまたざる処なるべし。
生者必滅は世の理なるも、思わざりき、昨年愛息智君の華燭の典に祝辞を述べ、今日また、君の霊前に送別の辞を呈せんとは。
クラス会にて酒をたしなまざる君が、酒飲みの級友と楽しげに静かに談笑する様眼前にあり。過ぐる大戦にて散華せる「級友の澄みし瞳」と心の中にて語り合う我々の習慣を君と語り合いし時も幾度か、今日よりは君とも心で語り合うより他に術なきか。
青年多感の江田島以来、38年の現世の交友の終りに当り、君に送別の辞を呈せんとするも、万感せまり筆遅々として運ばず、意尽せざるを憾む。
唯々君の冥福を祈るのみ
願くは 安らかに天上に在りて
昭和53年６月１９日
海軍兵学校第７２期同期生代表 浦本 生
（なにわ会ニュース39号10頁 昭和53年９月掲載