ブラジルの新しき城
森 栄一(72期指導官)
四十年九月十五日バイパス六号受領。多謝。沢本兄のご紹介には恐縮至極。そして皆様およびお子様方からブラジル同志の一人でも多く現われんことを切望しています。
おかげさまにて、着伯一カ月目に当NITEROI市内の一等地に古い家邸を買って、やっと地球上に〃わが新しき城〃を定めました。
この地はICARAI海岸といいまして、昔から別荘地らしく、年中海水浴ができ、魚も釣れ、真正面にはRIOの実景が横たわり全く素晴らしい所でした。わが家は海岸通りから一つ内側にはいったところ、パンツ一つで海に出られます。藤沢の何等地かを売って、ここが買えしかも家具代が出たのですから幸いでした。
そして着伯二カ月目に練習艦隊で、鈴木・柴田両兄ご来訪、ぜひこの家だけは見て帰って頂きたいとて、遠路とくにお出で頂いて、祝盃をあげることができました。(自衛艦隊も千葉艦隊も脚が長くなったものですね。)
なお鈴木兄その後八ミリでこの附近を写されたそうですから、どうぞご覧下さい。(注)
当NITEROI市は、RIO DE JANEIRO州の首都、人口約四〇万、隣接市を入れると六〇万、大学もあり、対岸RIOに通勤する人で、渡船はいつもいっばい、近くRIOに橋がかかる予定で、実現たしらもっと便利(現在三〇分)になりましょう。
わが社 山県建設は当市に発足し、しかもほかの日系人が少いものですから、当地の日系人は皆山県の親戚のようにみられているらしく、一般伯人の山県に対する尊敬、信頼が私共にまで及ぽして、これまたありがたい次第です。
着伯以来だいたい20。C〜28。Cの間で、すでに約三カ月にわたって、〃日本の初秋〃を味わっておりますが、夏ほ海岸ですのでサンパウロより暑いが、乾燥しているので、東京の夏よりは凌ぎやすいとの由です。今でも時々セェーターを持って出ます。
日本より安いものは、先ずコーヒー、果物、肉、野菜、魚、日本米(水稲)、バス渡船代、不動産などで、日本より高いものは、先ず人材、家具、電気製品、近代繊維の衣類、事務用紙で、当地が魚の水揚場で、日本では戦後われわれの口には入らなかった真鯛、ススキ、車エビなどをkg単位で買って味わえることはとんだ拾いものでした。
一般に当地の伯人は、友愛、善意の精神に富み、これらの伯人に温く迎えられ、ともに働けることは全く素晴らしいことで、一日も早く葡語に慣れたいものと思っています。
一歩郊外に出ますと、和田兄に見せたい位に土地が広くて牛馬が悠々としており、緑の濃いところほど牛馬も肥えているようで面白いですね。また家がないのに先ず立派な道路が建設され、さすが青年の国のような若々しさを感じますね。
いままでアマゾンの北、べネゼィラ国よりには油田があると聞いていましたが、今度はアマゾン河口の南東方マニニオン州に約一万平方粁が発見されたとかの由、現在世界最大のクェート油田も面積6000平方粁とのことですから、これが本当だったら、自動車の油もさらに安くなり(目下一立26円)今後車を大いに走らせたい方のためにも〃希望の国〃になりましょう。
もちろん葡語では、マゴついていますが、それ以外の点は予想したところと大差ないようですね。本日はこれにて。(40・9・27)
(編者注、鈴木千葉艦隊長官記事参照。)
外電によれば一月中旬、ニテロイ地方は大豪雨、大洪水にて被害甚大の由。森教官ご一家のご無事とご健康をお祈りします。