亡き戦友の志を生かすの道
草鹿 任一
それは素より単に筆舌の問題ではない。我々が身を以て行うべきものである。
今日の世相は誠になげかはしい憂慮に堪えぬ次第であることは誰でもそう感ずるであろう。然らば我々はどうしたらよいのかということを深く考えて見れば結局自分自身を徹底的に正しく鍛錬するということに帰着するものと思う。世相に対する憂憤の至情は直ちに転じて以て自己に対する熱烈なる反省となるべきであって、それが正しい自然の行き方であると思う。
我々の考えは兎角外に向い勝ちであるがそれは愚かなことである。我々は先ず以って自分というものを正しく見なければならぬ。これが正しければ自然他に対して正しい働きをすることが出来る。否内外は元来別々のものではない。
故に我々が亡き戦友の志を生かす真の行いは自分自身を正しく養うことである。我々が大いに之に努めるならば必ずや清く明く平和にして正義に強い日本国家が建設されるに決って居る。何とか運動とか何とか闘争とか鳴物入りで騒ぐよりも国民自分自分が最も手近かの自己を正しくすることが一番有効なる平和運動である。皆がやる気ならば今からでもすぐ出来る。又すぐやらなければならぬと思う。
さて、次に何を為すにも真剣味が必要であって今日の我々は矢張り嘗て体験したあの真剣な気持を以て事に当らなければならぬと思う。戦争でも平和でも真剣に変りはない。今の世は人の真剣味というものが著しく失われて居る様に感ずるのでこんなことでは国家の正しい再建は実に覚束ないものと寒心に堪えぬ次第である。
之を要するに我々が亡き戦友の志を生かさむが為めには「真剣に自己を正しく鍛錬する」これが第一であると思う。
之は何の変哲もない極めて平凡なことである。然し之は限りなく高く、深く、広く、際限のないものであって、我々はその絶えざる努力により釈迦にも孔子にもなり得る。否もっとえらくなり得る。たとえ我々の一生ではなれなくとも絶えざる努力を重ぬるならば次の世、その又次の世、何時かはなれるという希望は決して空理空想ではない。
我々はお互いにこの意気を以て亡き戦友の志を生かし多難なる国運を切り抜くべく邁進しようではないか。
(附 記)
自分を徹底的に正しく養って行くにはどうしても正しい宗教に依るより外はない。私は左様に痛感し内地帰還後立派な仏教の師を探し求めて居たが、偶々近頃漸く安谷量衡(号白雲)師と相い知り同志の人々と一処に鎌倉白会なるものを設け毎月第四の土・日曜日に安谷老師の来会を仰いで教えを受けている。目下会員約20名で旧海軍の人達が半分位である。会則は左記の通りであるが、諸君の参加を大におすすめする。 (終)
鎌倉白雲会規約
一、目 的
安谷量衡老師の御指導を仰ぎ仏道を修業するにあり。
二、道 場
毎月第四日曜日
鎌倉市材木座四一六 佐々木広宣方
毎月右以外日曜及び第四土曜
鎌倉市長谷二一五 前田利建氏茶室
三、行 事
(1) 毎月第四土曜一九〇〇より二一〇〇迄
同 右 日曜〇九〇〇より一七〇〇迄
老師御指導の下に坐禅、提唱、総参、独参等を行ふ
(2) 右以外日曜日には午前中会員のみにて坐禅
(3) 会員は各自ふとん、弁当持参のこと
四、会 費 毎月 弐百円
五、世話人
鎌倉市浄明寺一一 草鹿 任一
鎌倉市長谷一四一六 山周 匡蔵