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祭   文

山下 茂幸

 謹んで靖國の杜に鎮まります海軍兵学校第七十二期・海軍機関学校第五十三期・海軍経理学校第三十三期の英霊に申し上げます。

 本日、平成十年なにわ会参拝クラス会を迎え、ご遺族をはじめ教官およびクラス生存者一同が、新緑の社頭に相集い、過ぎし大東亜戦争の当時を追憶し、尊い一命を国家のために捧げられた諸兄の功績を、讃えるとともに往時の英姿を偲びつつ、しばし語りたいと思います。

 顧みますと、昭和十五年十二月にそれぞれ江田島、舞鶴、築地に参集した我々は、各学校での教育・訓練を経て、海軍士官としての基礎教育を身につけ、大東亜戦争の真直中の昭和十八年九月、戦勢は傾きつつあったとはいえ必勝を信じ、相携え勇躍戦の庭に赴きました。死は武士道の習いとは申せ、死と生が靖國の諸兄と我々とを分かったのは、単純に「運命」という一語にだけ押しっけてしまうには忍び難く、多くの友を失ったクラスとして痛恨の極みであります。

戦い終わって五十有余年、多くの変化と困難を克服されて生き抜かれた、ご両親の大半は他界をされて、ご存命の十名余りの方もご高齢のために、ここ靖國の社頭までお出かけ頂けなくなりましたことは、寂しい限りでございます。しかし、ご兄弟・ご姉妹はじめ甥・姪の方々が多数ご参集下さり、我々とともに本日、慰霊の日を持つことができましたことは、誠に喜びに堪えません。

 戦死された諸兄の心を心とし、戦後を生き抜いた我々も、必ずしも平坦な道ばかりとは言えませんでしたが、兄らのご遺志を継ぎ、それぞれの分野で、わが国再建のために微力を尽くして参りました。しかし、今や齢古希を越え何気なく、なにわ会名簿を開くと、生存者は、僅か二名という頁もみられるようになってしまいました。兄らが一命を捧げて、安泰を計って下さった祖国日本は、戦後幾多の混乱と苦悩を乗り越え、経済立国の道を進み、国際紛争に直接悩まされることも少なく、国力の充実に向かい努力を続けた結果、国際社会の中にあって平和を享受し、未曾有の経済的繁栄と国民生活の向上を達成し、世界第二の経済大国となりました。

しかし、豊かになった日本も、自国の経済的欲望のみを追求する余り、世界の自由経済の流れに対する対応が遅れ、制度疲労は極に達し、旧来のもろもろの規制から、脱却する機会を失してしまった感があります。今やこれが政・官・財の構造的癒着・腐敗となって顕れ、自壊作用を生じつつあります。世界規模の金融大恐慌のなかで、懸念材料は近い将全国民の大半を占めるようにもなり、どのよぅな世の中になるかについて、予見することはできません。我々クラスもこの世を去る者の数は、次第に増加せざるを得ないと思いますが、生ある限り、兄らの精神を受け継ぎ、微力ではありますが、「一灯照隅」の気概を失わず、諸兄に恥じぬ生を終えて、再会の日を迎えたいものと願っております。

願わくは在天の英霊とこしえに安らかに眠られ、ご遺族と我々を見守り賜らんことを。

 平成十年六月四日

  なにわ会代表 山下 茂幸