100号
お礼とお別れ
向井寿三郎
上掲の詩文は、詩人 茨木のり子 が死の前に準備した挨拶文である。詩人はこの鉛筆書きの原稿を自ら印刷所へ持ち込んだという。
かねてから、私もほぼ同様の思いを抱いていたので、これを拝借して「なにわ会」の皆様へのお礼とお別れの言葉としたい。
とは申しても、詩人と私とでは、身上が同じではないので、誌文の5行目を飛ばし、8行目と9行目を次ぎのように差し替えてお読み下さるようお願いします。
『晩酌の折、「あいつはこれに目が無かったなあ」とほんの心持ち、盃を掲げて下さればそれで十分です。』
―原文の冒涜を恐れつつ―
上掲の原文は字が小さくて読みにくそうなので、本誌常用の活字に直せば下段のようになります。
このたび私 年 月 日
にて この世におさらばすることになりました。
これは生前に書き置くものです。
私の意志で、葬儀・お別れ会は何もいたしません。
この家も当分の間、無人となりますゆえ、弔慰の品はお花を含め、一切お送り下さいませんように。
返送の無礼を重ねるだけと存じますので。
「あの人も逝ったか」と一瞬、たったの一瞬 思い出して下さればそれで十分でございます。
あなたさまから頂いた長年にわたるあたたかなおつきあいは、見えざる宝石のように、私の胸にしまわれ、光芒を放ち、私の人生をどれほど豊かにして下さいましたことか…。
深い感謝を捧げつつ、お別れの言葉に代えさせて頂きます。
ありがとうございました。
年 月 日