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巡   航

「あの鼻廻れば 生徒館がみえる赤い煉瓦にゃ 鬼が住む」巡航節にもある「あの鼻」とは江田湾の湾口の津久茂の鼻である。巡航についてはたびたび本誌で書かれてあるので説明を略し、画についてのみ記します。

津久茂の鼻がみえる画のような地点に到達するころは楽しかった巡航も七分どおり終りである。疲れて寝る者と今日の巡航の騒ぎ納めと、士官室(艇尾の一画で一号、二号、三号でクルーを編成すると概ね濶盾フ方は三号、中が二号、トモの方は一号が陣取る)で飲み(カルピス又はサイダー)食い(ハービス、羊羹、五色玉、ETC)歌う(正確にはややリズムのある雑音)元気な連中と、ボソボソ故郷の話でもしている組とに分かれる。

短艇の両側に束ねてあるのは櫂、瓜竿、士官室の中央にある樽は水樽である。+印はきらめく夜光虫で舵についてくるようで美しい。

この時刻、大体まともなのは艇指揮・艇長ぐらいのもの(濶盾ノ向かって右が艇指揮、左が艇長の位置)艇長が舵をとるのだが、風にはためく軍艦旗の関係で画は都合で逆にしている。濶盾フ方で放尿している者がいるが、これは風下でするのが普通、風紀上後ろ姿で表現させるため風上側になっている(もっとも風の弱い時にはその限りに非ず)ステー(マストを支えている索)に片手をかけて放尿するのだが、この図の程度の風だと、よほど水圧の強い者でないと放水終期に眠っている者に被害が及ぶ恐れがある。士官室の方では軍艦旗の旗竿に片手をかけ、艇尾に立ってするのが最も安定性があり、放尿による夜光虫の光の列もきれいだし、なかなか泣かせる風情である。大きい方を処理するには、……いやこれは話が美的感覚をそこなうからカットしよう。(それに大方の者は生徒館までがまんしたようだ)きれいな海、きれいな空気、白砂青松の島々の点在する瀬戸内を、平均年齢19のバージン野郎どもが一晩中帆走したら、大抵身も心も頭のテッペンから足の先まできれいになる。ならない奴がいたとすれば、それこそ悪魔の落し子だ。(いつの日か一術校のカッターを借用一晩瀬戸内の帆走巡航をやりたいものだ。もちろん、煙草・酒付・女気ナシで)

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