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平成22年4月27日 校正すみ

大西長官と多田圭太

編集部

多田 圭太
大西は海軍次官の多田武雄中将と親交があった。大西には子種がなく、しばしば周囲の者に「俺の家は二重の無産階級だ」と冗談を飛ばしていた。それだけに、多田の息子の圭太を赤ん坊のときから可愛がり、「ちょっと抱かせろ」と松の枝のような腕の中で圭太を眠らせた。らせた。その多田圭太が海兵を卒業し、(兵科72 昭和18年卒業)海軍航空隊隊員として比島に出陣した大西の発令で、彼も特別攻撃隊に編入され、「神風特別攻撃隊第二朱雀隊の隊長機に乗った。出発に先立ち、多田圭太海車中尉大西を長官室に訪れている十月二十六日の夜のことで、大西はそのときの模様を、かなりくわしく矢次一夫に語ている。

ある夜、外から俺の部屋をノックし、「オツチヤーン」と飛び込んできたやつがいる。ハツとしてみると、多田の息子の圭太で海軍中尉だベッドの前で挙手の礼をすると、「これから行ってまいります」といつた俺が驚いて「元気でやれよ」と言つてやると、圭太はすぐ部屋を飛び出して行った俺も思わず圭太のとから飛び出すと、圭太の影が月明の中を走ってゆくのだ。それからまもなくして11月19日) 「多田中尉、いまより敵艦に突入する」という無電が入った。俺は、多田とは親友だし、圭太は子どものときから寝かせつけたり、相撲をとつてやったりした仲なのだ。だから、この時は、じつに熱鉄を飲む思いがしたよ.それから、俺は軍令次長になって一緒に仕事をしてきたが、多のやつは圭太のことを俺にひと聞かないのだ.俺も、ついにに出せなかたが、ずいぶん辛かつたよ・・・

 失次は大西の話を聞きながら、「ああ、大西は死んだら自分に代わって多田中将に話してくれといつているのだな」と思った。

大西自刃の枕頭にかけつけた多田夫妻にそのことを話すと、多田は瞑目し、夫人は泣き崩れた。

(なにわ会ニュース89号83頁 平成17年9月掲載)

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