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昭和27年11月寄稿

第一回慰霊祭 祭詞

草鹿任一

 これ時 昭和二十七年十月十二日、海軍兵学校第七十二期級会の慰霊祭に当り、当時の校長海軍中将草鹿任一謹みて三百三十有余名の英霊に申し上げます。

 諸君は過去大戦において、海軍士官としてよくその本分を尽くし、身をもって国難に殉ぜられました。中に少数の人は戦闘訓練中に殉職し、或いは不幸病を得て不帰の客となられましたが、その烈々たる尽忠報国の精神においては素より優り劣りはありません。

 私は今日この霊前において往年戦場における諸君の英姿を偲び、また、更に兵学校当時のあの楽しかった生活に思いを致すとき、まことに感慨無量、ただ「よくやって呉れました」と頭を下げるのみであります。

 出征後、私は麾(き)下の若き将兵か奮闘するのをまのあたりに見て、心から有り難く思うと共に、その相次ぐ壮烈なる戦死に対し悲痛哀惜の情堪えざるものがあり、速かに戦争の目的が達せられ、平和の来らんことを念願しておりました。

  漸くにして戦争は終りましたが、日本は敗れました。諸君は必勝を祈り、また、信じて護国の鬼となられたのでありますが、その志は報いられることなく、この結果となりましたことは実に限りなき痛恨事であります。

 然しながら、日本は敗れたと雖も滅びたのではありません。「艱難汝を玉にす」今こそ、我等はこの天の与えた試練に打ち克って愈々大成をなさんがため奮起すべき秋であります。既に現世になき諸君も、未だ世にある我等も皆一団となって進むべきであります。古今天地を貫く諸君が忠列の魂は現に脈脈として我等の胸中に生きて居ります。諸君が戦争において発揮した大和魂は我等か平和日本建設の礎をなすものであります。今日国政を論じ、外交を説く、悉くこれこの礎の上に立つにあらずんば何を以て真に其の目的を達することか出来ましょうか。ここに、私は世に二つなき真心に、永久に諸君と共に一つに帰し、輝く国家前途の光明に向って相携えて一路邁進せんと誓うものであります。

 いささか、所懐を述べて祭詞と致します。

 希くは在天の英霊、髣髴(ほうふつ)として来り饗けられんことを。  (終)

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