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石津滋君よ  さようなら

泉 五郎

 石津 滋が死んだ

死の前日彼と会ったというのに

きっと彼が呼んだのだ

 

四国の旅に出掛ける前

何となく彼に会いたくなった

何度電話をしてもかからない

苦手の留守番電話ばかり

それでもかけた留守番電話

出掛ける前の日 奥方の返事は

思いもかけぬ病気入院

奥方の声が気になった

帰途予定を早めて広島へ

出迎えの奥方とは入れ違いになったが

病院は静かだった

小さな個室で久しぶりの出会い

予想外に元気に思えた

握った手の温もり

力強い握り返し

ベッドにどっかりあぐらをかい

彼は独りでしゃべった

家のこと 奥さんのこと 息子のこと

 

咽喉の脹れが気になったが

これなら手術をすればいけそうだと思った

それほど元気だった

それなのに彼は

それなのに彼はこつ然として逝った

 

想えば短い付き合いだった

潜校学生五号室

六隊 呂五七と五九潜

呉のレスで 横須賀の街で

ホロ苦く 甘く切なく

そしていずれはながくない命と

共に味わった青春の日々

懐かしい想い出を共にした彼

その彼はもういない

さびしいな

 

戦後は遠く離れて

賀状のやり取りくらいか

江田島クラス会に宮島の宿で

ご子息を交えて会ったっけ

お人よしの彼だった

坊ちゃんが武士の商法

彼も苦労したろうが

奥さんも大変だったろう

彼は本当に感謝していた

息子さんにも期待していた

別れの際の彼の笑顔が眼に浮かぶ

 

その笑顔が今にして思えば

なんとなくさびしげだった

ポン友石津よ なぜ死んだ

なぜ死んだのだ

俺もほんとはもっと話したかったのに

今となっては仕方ない

言いたくないが さようなら

さようなら 右津君! 

夫滋の最期(泉 五郎宛)

石津 稜子

前略 情厚きお便り有難く拝見いたしました。

あの日は丁度コバルト治療をし始めてより二度目の金曜日、六度目の日でした。前日流動食をやっと努力し全部平らげたものを、高度蛋白質を栄養補給のため初めて点滴し、胸やけがすると言って嘔吐した翌朝で、胃袋はカラカラの状態でしたが、コバルトの日なので頑張って行こうと準備し張切っていまし

たが、主治の先生が「今日は休み、体力をつけて月曜日に」とその日は中止になりました。

 それで午後一時より三時まで、治療時間の予定が空白となりました。二時過ぎにお忙しい中わざわざ立寄って下さるとの電話連絡の経緯にも″そんなに無理しなくとも″と強気で話してはいましたが、とても二十四日のお会い出来る日を指折り数える主人の姿をみるにつけ、すぐにでも会って頂ける時間が出来

たと、早々に宇品港に時間帯を尋ねました。フェリーは二時半、水中翼船は三時頃と、お目にかかってはないがきっと判ると、タクシーに夢中で飛び乗り、港まで二十分でしたが、行き違いでお会いできず、でもコバルトが休みだったので充分主人はお会いすることができた由、主人も満足だったことでしょう。

 翌朝二十五日、六甲の水をもって行った時は、のどの通りが楽になった臍天で寝られると、でもこげ茶色の汚物が唾液とともに出て、これは血痰だから早く出さねばと意識して吐こうとしていましたが、昨日までと違う顔色に不安を感じ、近いのを幸いと足繁く見舞い、午後八時の閉院頃、主人は時計を見て、もう七時五十五分、しまるから帰って子供に食事を準備してやるよう(その日は仕事を済ませ、全店舗の集金に来てくれていた)にと話すので、心残りの思いながら気を取りなおし帰り、食事後子供も帰宅しホッとした頓、病院より″急変したから来て下さい″とめ電話に、取るものも取りあえずかけて行った時は、主治の先生と病院の先生で人口呼吸をしておられる最中でした。心電図の流れはまたたくような流れをみせ十一時四十五分、臨終を告げられました。すぐに長男の車で、肌布団にくるませ私がしっかり抱いて帰宅しました。

 思えば、波乱万丈、これぞ人生など噴き、時流に合せ職種を度々換え、都度いつも仕事の主役、花形におしあげて苦楽共に味わいぬいた、息付く暇もないような一生でしたが、今回だけは独りで勝手にいってしまったと思い、時々の細かないたわり、行動、つきぬ思い出に涙してしまいました。

 急逝ではありましたが、なにわ会の皆様始め多々方々の力強い励ましに接し、昨日初七日の法要も近隣の親しい方々の参加の中済ませ、今はやはり亡くなっても今までの如く私をして独りでも懸命にほほえみを忘れず、これからの人生の舞台に花形の座につかせよぅと、雑多なことを残してくれているのに気付き、ただただ遺影に長くて短かった過ぎた年月の厚みを謝すとともに、主人が一生熱い想いで抱きしめていた青春の日々、方々のこと、時々に語る瞳の輝きを偲び、又、この度の皆様の変らぬ友情に御礼の言葉もございません。本当に有り難うございました。

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