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祭  文

佐藤  静

謹んで海軍兵学校第七十二期、海軍機関学校第五十三期および海軍経理学校第三十三期の在天の諸兄の御霊に申し上げます。
 本日ここに、諸兄のご遺族ともども生存者相集い、御霊の安らかならんことを祈念するにあたり、昔日の諸兄の在りし日の御姿を偲び、悲しみ側々と胸に迫るとともに、懐旧の念誠に一人のものを感ぜずにはおられません。
 顧みれば、昭和十八年秋、先の大戦の戦局が日に日に熾烈化する中、諸兄らともども、私達は学校を卒業、狂瀾を既倒に返すべく、醜の御盾として、勇躍第一線に赴きました。生死の差は紙一重というのが戦場の常とは申せ、諸兄らは、祖国を思う至誠を貫き、力の限りを尽くして戦われ、さなきだに短い人生をあたかも駈け抜けるかのように、戦場に散華され、再び相見えることも叶わなくなりました。真に痛恨の極み、悼ましい限りと申すべく、ましてやご遺族のご心情に想いを致すとき、語るべき言葉もありません。
 爾来幾星霜、本年は、諸兄らとともに思い出多き江田島、舞鶴、築地の地に別れを告げて以来、満五十年を迎えることとなりました。
 この半世紀、諸兄が身命を賭された祖国日本は平和な日々に恵まれ、経済的には著しい発展を遂げ、世界でも有数の豊かな国となりました。このような発展、繁栄が、諸兄らの
尊い生命を礎として、その上に築かれたものであることは申すまでもありません。しかし同時に、先の大戦を知らない世代が全国民の半ば以上を占める時代にもなりました。また国民の意識、価値観の多様化も著しく、社会、国民生活の変化も甚だしいものがあります。さらにここ数年、世界的には冷戦こそ終結を見たものの、新しい秩序の確立には至らず、紛争、動乱はむしを各地で激しさを増す情勢にありますし、国内でも政治不信の高まり、国際的な経済摩擦の激化など、憂うべき問題を抱え、荏苒日を過しているのが最近の実情であります。

時の流れにはもとより抗い得ませんが、このような戦争体験の風化、世情人心の移ろいを思うとき、いささかの感慨を禁じ得ないものがあります。
 もちろん生き残った私達にとり、戦争体験の風化はありません。先の大戦への参加は私達にとって男子の本懐であり、終生忘れることのできない事でありますし、諸兄の面影は若き日のまま私達一人一人の胸に深く刻み込まれております。とは申せ、私達も既に老境を迎えました。大方の者が古稀の齢を重ねるに至っており、戦後病に斃れ幽明境を異にした友も七十名の多きに達しております。私達は、年老いたとはいえ、今後とも諸兄らがに念じたところを吾が心として、社会のため微力を尽くして参る所存であります。
 瞼に浮かぶ諸兄らを偲びながら、ここに心から諸兄のご冥福を祈り上げるとともに、願わくはご遺族がいつまでも健やねに、かつ幸せ多き人生を過ごされるよう、お見守り下さい。

平成五年六月三日

佐藤  静