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攻撃精神これあるのみ

海軍は訓練課目に相撲を採用していた。あの忙しい生徒の訓育日課に5月一杯(舞鶴築地は6月)相撲訓練がある。その理由を考えた。

1 運動不足になり勝ちの狭い艦内でも手軽に出来る。個人競技ながらマワシ一本、裸と裸でやる親近感のある男性的競技である。

2、攻撃は最善の防禦である。貧乏財政からのやりくり帝国海軍としては、全力をあげて一瞬のうちに勝敗を決するを建前とする攻勢防禦より他になく、相撲がよく似ている。個人プレーとチームプレーの相異を別にすれば、その根本戦法には、棒倒しと共通点が多い。

従って、押さば押せ、引かは押せ、勝つにこしたことはないが、相手の土俵で相撲をとるのが第一で、脇を固め、腰を割ってスリ足で前に出る戦法一本槍、相撲帯(マワル)をとろう等考えたら、一号の相撲係からどやされる。三号たる者、相手が鬼の一号だったりすると、いいままよと猪突猛進する手合が出てくる。海軍相撲は「用意、始メ」で戦斗開始だから仕切りは早い、一寸仕切の角度が狂って、盲進すると、図のように気付いた時は土俵際ということになる。気力充実の故か相捗の大怪我はほとんどないが、すり傷はよくある。短艇訓練の尻の傷と共にヨーチン、赤チン、アクリール、ガーゼ、絆創膏、は生徒館生活の必需品である。余談ながら「緊裡一番」という文字は、ご婦人方には勿論不可能だろうが、男子でも相撲帯をしめた者でないと実感はないだろう。件の入試には六尺を緊禅させたら実力発揮に役立つだろう。もっとも自分で着脱できないと小便の時は難渋するし、後はユルフソになる恐れがある。

相撲は概してヘビー級で足の短い重心の低い者(即ち弥山登山競技、10哩レースの得手でない老)が強いのは物理的原則である。おまけに三号でも早く上達する。訓練ともなれば一号も三号もない。土俵を囲んで分隊員のとりまく中で一号が三号にやられるのは余り恰好のよいものではない。神宮の全国相拷大会に出ましたという三号が分隊にいると、ライト級やノッポの一号には憂欝の一カ月である。しかし、たとえ弱くとも「さあこい」と元気に飛び出してくる一号生徒には好感と尊敬の念の湧くもので、部下指導の一面も学べる。「築地は両国に近いので、元三役の紅葉川が指導したよ、33期は強いのがおらず、全校大会は3号に個人優勝をかっさらわれたのだけ覚えている」以上亀谷相撲係生徒の話。市販の本に海軍の相撲訓練は負け残り、と書いてあるが、生徒の相撲訓練にはそのようなことはなかった。

参考までに記憶をたどって役力士生徒を列記する。

築地 − 赤石、亀谷、

舞鶴 合志、高脇、村上、吉岡、阿部順男、

江田島 伊藤八郎、岡田清、川端格、坂田明治、森山、渡辺清實、大河原、澤本倫生、樋口直、富士、

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