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10米の高飛込みは遊泳訓練における生徒の達すべき標準であり、その空中観念(運動神経)と決断力を養成するのが目的である。5米で基本姿勢を覚えたら、7米、10米と高さをかえて行く、高くなるにつれ、滞空時間も長くなり、飛び込みの爽快さも増す。

 浅間の前甲板に櫓を組み10米の飛込台ができ上る。生徒さんと雖も、高所恐怖症があることに変りない。初めての者は褌はかたくしめてあるからご子息の方は異常はないが、足はフラフラ、7米と10米僅か3米の差がこんなに高いとは思わなかった程、目もくらむ。しかし、われは将校生徒なり。1号が模範を示して、「次掛レ」と号令がかかった以上、たとえ、足はすくみ、目はくらむとも面子にかけても飛び込まねばならない。
オリンピック式に両手を上げ、精神統一をはかり、両手を下げた後は、思いっきってふみきる。手を広げ、万才の形で空中に飛び、頭が下って地平線を切ったら両手をにぎりしめる。あとは、地球の引力にまかせる他はない。遊泳帽(帽子の紐の端がたれているのは禁物)と遊泳帯は入校時に新品が渡されるが、在校中使用するので一号ともなれば布地が弱ってくる。水に入る角度が狂うと遊泳帯が破れるのはともかく、遊泳帯がきれるときがある。

不安げな三号を後にして「よう見ておけ」とばかりに勢こんで飛び込んだ一号が慌ててちぎれた遊泳帯を探すのを上から見ると何とも言えない可笑しさがこみあげる。ちぎれた遊泳帯で前をおさえて戻ってくる一号は自分の照れかくしを「ジロジロ見るな」の一喝で仕末する。

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